[kouryukan 571] キ〜ン[山がすべて凍てつく季節]   2000/12/5   杉山要
2000/12/05 21:53
Subject: [kouryukan 571] キ〜ン

山のすべてが凍てつく季節

この土地にいると、一日のうちで最も寒い時間帯がよくわかる。それは、意外にも日の出のあとの数時間。
川面から湯気が昇るのは、村に温泉があるからではなく、そこに流れているのはいつもの水。
湯気の中をヤマセミが、魚を求めて一直線に飛んでゆく。
目をあげると青い空を切り取るように、霧氷をつけた木々の稜線が、広がっている。そこはもう朝日に照らされているのに、なかなか自分のところに日差しが来ない。
そんなときは、ほんとうに「おてんとうさま」が恋しい。

山は、ほとんどの木が葉をおとしているので、明るい。
わずかに緑を残すのは、松や樅の仲間の針葉樹たち。
日陰の地面は凍り、もう春までそのままなのに、そんなところでも、鳥たちは動物性の餌を見つけ出す。
暖色の見えなくなった林で、ツルウメモドキの実が妙に目立っている。

ふたたび目を川の方に移すと、ハシブトガラスが橋の欄干でせっせと鳴いている。口から白い息をはきながら。